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「渡辺要物語 歌は心の港」  第4回 穴子鮨 [インタビュー]

「要鮨」では渡辺要は、客作りとともに、信用作りにも精を出した。何を買うにも現金払いを通したし、1坪でもいいから土地を買おうと「目の前にある1円、10円から、とにかく貯金をしました。履物は下駄と長靴、着るものは白衣で通して、一切買わずに貯めて貯めて貯めて頑張りました」と振り返っている。そんな中で全国に知られた穴子鮨を生み出す。

渡辺要・要鮨看板.jpg
高松・ライオン通りの新店舗に掲げた欅の看板


 爪に火をともすよう生活を切り詰め、質素倹約を通した結果、6年間で約2000万円の蓄えが出来た。それを担保に銀行から資金を借りて、高松のもうひとつの繁華街、ライオン通り商店街のビルを約4000万円で買うことになる。この時は現金ではなく、借金であったのだが。
 とにかくそれによって、高松の目抜き通りに約90平方メートルの「要鮨」の看板を上げることが出来た。27歳の時だった。

渡辺要・名物穴子鮨を作る.jpg 新店舗は香川県にはない鮨屋を目標に、カウンターには欅の板を使って持てなしの気持ちを表したし、柱には欅と杉の丸太を存分に使って、坪当り100万円も費やして店を整えた。当時の飲食店舗は坪平均20万円程度だったと言われているから、それがいかに桁違いな店だったかが分かる。
 調理師も大阪から呼んだ。海外からの観光客も多かったので、英語のメニューも作り、英会話に堪能な調理師もふたり採用した。従業員にはネクタイを締めさせ、胸にはネーム札を付けて、礼儀正しい接客に徹することにした。

 腕に自慢の鮨は、最高級の米、コシヒカリを使った。大事なのが合わせ酢なのだが、酢にリンゴ酢を加えるこだわりを見せた。わさびは当時、高松ではなかなか手に入らなかった静岡産を現地まで出かけて買い付け、1本3000円もするわさびをディスプレイに置いた。客には1本200円の小さなものを出して、自分で摺って楽しんでもらうことにした。


<歌う寿司職人>と今なお呼ばれる渡辺要


 客に出す鮨も、木の葉や竹の皮を敷いてその上に出すことで、味だけではなく見栄えを考えた結果だった。

■名物誕生

渡辺要・鮨職一代.jpg 1番店になるためには色んな工夫をしていった。
 それにもまして「醤油は鮨屋の最後の仕事なんです。どんなにいい米やネタを使っても、醤油が良くなければ鮨は終わってしまいます」と、要鮨特製の醤油にも一捻り加えた。

 香川県は小豆島など醤油の産地としても知られるが、3つのブランドの醤油を合わせることで味にコクを出した。まずブレンドした醤油を大きな鍋で火にかけて、黄色い泡が出るまで温める。泡をすくい取る作業を根気よく繰り返し、大豆のアクを取るとアミノ酸が増えて甘みが出てくる。



インディーズ時代に鮨職人をしながら出した「鮨職一代」

 そこに鰹と鯖の削り節を入れ、沈殿するのを待って濾す。瓶に入れ暗い場所で保存しておき、醤油注しに移して客に出していた。「これが旨いんですよ。やはり鮨は醤油が命ですね」と渡辺は力説する。

 「瀬戸内の穴子は格別である」
 渡辺は絶対の自信を見せる。その頭を落とし、みりんに漬けて串に刺して火にかける。こうしてアルコールを飛ばすと、いい酒の肴になるのである。
 穴子の胴は開いて、水飴や調味料などを加えて作ったダシに漬け、とろ火で3時間、4時間かけて炊くと、口の中で溶けるように柔らかくなる。その穴子を握った鮨飯にのせると絶品の鮨が出来上がる。

 この穴子鮨は東京のテレビ局が取材したことで、全国鮨名店8店舗に選ばれるきっかけとなった。瀬戸の味そのものの穴子鮨は、こうして要鮨の名物になった。
 鮨職人を辞めた今も渡辺は、世間からは今でも「歌う寿司職人」と言われている。事実、彼が鮨を語る表情は、歌っている時と同じように実に生き生きとしていた。


 記者は「要鮨」が高松にオープンしてから6年後の同53年に京都から高松に転勤している。それから間もなくして、新店舗が出来たことになる。
 回転しない鮨屋へ行くなんて、とんでもない話であったから、その味は知らずに過ごしていたのであるが、渡辺のそんな努力もあって高松・ライオン通りの要鮨の新店舗はオープンすると、たちまち「次々と客が来るわ来るわの大賑わい」だった。

続く

「渡辺要物語 歌は心の港」 第3回 1番店へ
http://music-news-jp.blog.so-net.ne.jp/2018-02-03
「渡辺要物語 歌は心の港」 第2回 「要鮨」開店
http://music-news-jp.blog.so-net.ne.jp/2018-02-02
「渡辺要物語 歌は心の港」 第1回 大阪・法善寺横丁の寿司屋で修業
http://music-news-jp.blog.so-net.ne.jp/2017-11-28
「渡辺要物語 歌は心の港」  プロローグ
http://music-news-jp.blog.so-net.ne.jp/2017-11-23







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