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女人高野・室生寺へ 第9回歌を歩く [イベント]

◆歌手田川寿美の代表曲「女人高野」は2002年10月に発売されているが、詞は作家の五木寛之が書いている。「第9回歌を歩く」では、この女人高野を取り上げた。歌詞に ♫ 通りゃんせ 通りゃんせ ここは どこの 細道じゃ 〜 とあるように、我々が歩いた、女人高野の別名を持つ室生寺への道は、高い木立で隠れて空も見えない石ころばかりの、歩くのにも難渋する山道であった。

近鉄・室生口大野駅.jpg
室生寺.jpg


 歌の舞台となった土地を訪ね歩く「歌を歩く」は、コロナ下の2020年7月に第1回目を始めた。今回は行き先に奈良県にある女人高野・室生寺を選んだ。女人禁制の高野山(和歌山県)に対して、室生寺は昔から女性の参拝を受け入れたことから女人高野の名前が付いたと言われている。

 参加したのは4人。2021年7月31日午前9時に近鉄・大阪なんば駅に集合した。
 近鉄電車で約1時間で室生寺の最寄駅・室生口大野に着いた。駅前には1時間に1本という室生寺行きの奈良交通バスが止まっていたが、室生寺までの約6キロの道のりは歩くのが目的であったから、それはやり過ごすことにした。

摩崖仏.jpg

 駅前の集落外れに大野寺があった。鎌倉時代の創建だという。その向かいを流れているのが宇陀川で、近づいてみると川は大きく湾曲しており、その向かいの大きな屏風岩は見事に切り込まれ、その内には高さ11・5メートルという弥勒像が彫られている。室生寺への道は始まったばかりだが、美しい川の流れと流麗な磨崖仏に早くも目を奪われてしまった。

 室生寺を示す標識を頼りに、車道沿いの幅広い歩道を進んで行くと、反対車線の道端に1台の軽トラック止まっており、中から男性が声をかけてきた。車の傍らの山の斜面から冷たい湧き水が出ているというのである。手を洗ってみるが、その通りに暑さを忘れさせるように冷たい。
 「どこへ行くのか」と男性が訊ねるので、室生寺と答えると、びっくりして声を上げていた。わずか6キロの道のりなのに驚くまでもないだろうに、とその時は我々が逆に驚いたほどだった。

 それは室生寺に続く車道沿いの歩道を歩けば、暑さとわずかな登り坂に耐えるだけだったのだが、ちょっとした誘惑に負けて別の道を選んだことから、想像もしなかった体験をすることになった。

 軽トラックの男性と別れてしばらく歩くと、東海自然歩道と書かれた標識が目に入ったのである。室生寺まで4.8キロと書かれている。それは山の中へ入って行く道だったが、車道沿いに進むよりも少し短かったのである。自然歩道とあるが、歩道であるから整備された道であろうと疑いもしなかった。

東海自然歩道・入口.jpg東海自然歩道・入口2.jpg

 その判断が甘かった。確かに自然歩道を歩き始めてしばらくは歩き易かったが、徐々に道の勾配は急になってくる。しかも苔むしった石ころゴロゴロで、石は不安定だから一歩間違えると足を挫いてしまう恐れがあるから、足元に気を付けながら歩かなければいけない。すると自然と時間が多くかかってくる。

東海自然歩道・倒木.jpg

 あとどれだけ歩けばいいのか、この先に室生寺があるのか、歩いても歩いても先が見えない山道には不安が募る。熊も出てくるかもしれない。
 汗は流れ落ちるし、首にかけたタオルは絞れるほど汗がびっしょりで、そんな体めがけて虫が次々と飛んでくる。誰もが無口になっていたし、最初はカメラのシャッターも切っていたが、それすら忘れてしまっていた。

 まるで小説の「八甲田山死の彷徨」のようである。

 この自然歩道は山を越えるルートであったようである。
 樹々の間から見えていた空も段々と見えなくなり、こんな道でもとにかく前に向かって歩かざるを得ない。それでも携帯電話は鳴る。電波状態は悪く、途切れ途切れに話をしていると、山中で非日常な体験をしているにもかかわらず、携帯電話の声は日常の世界に戻してくれるから不思議であった。

東海自然歩道・道標.jpg

 辛抱して歩き続けていると、空が近くになってきて、そのうちに頂上にたどり着いた。あとは降るだけ。気持ちも視界も明るくなってきた。一気に駆け降りると、建物の屋根が見えてきた。人の姿もある。全員安堵感で溢れていた。

室生寺3.jpg室生寺4.jpg

 でも、ここは室生寺ではなく、あとしばらく歩かなければいけなかった。それでも標識に従って進むこと20分近くで、ようやく室生寺に通じる橋の畔に出ることができたのである。
 通常ルートならば12時には到着していたであろうが、大幅にそれを超過して1時もかなり過ぎていた。
 門前の飲食店の男性が室生寺はこちらですよ、と教えてくれるのだが、歌詞に登場する女人高野の鎧坂も鐘の音も頭にはなく、ただエアコンが効いた部屋で座りたかった。

室生寺2.jpg








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