鐘と太鼓の音をゆったりと響かせながら、初めての盆を迎えた家を訪ねて練り歩く。同じ鉦の響きでも華やかな阿波踊りのそれとは異なって、音色はどこか寂しい。歌のイントロはそんな鉦の音で始まる。
♪ あなたの船はいつ帰る 〜 出て行ったきり、いつ帰って来るのか分からない船を待つ漁師が主人公だ。松永のふる里、八戸の港も東日本大震災では大きな被害を被っただけに、彼女にとっては歌っていて胸に迫るものがあるという。
「深い想いが込められた歌なんです。にも関わらずレコーディングの時に元気過ぎるぐらいに歌ったんですね。思わずこれではいけないと、歌い直したんです。ところが作曲の西つよし先生は力強い方でいきましょう、とそちらを採られたんです」
ながいは常々、歌で親孝行したいと言っているという。それを歌う松永にとっては「先生の想いを実現させなければ」といったいつもの歌以上に、作り手の想いがのしかかる。
「津波に流されたままの状態の所がまだ残るいわきの町へ行くと、自然と口が重くなります。そこで今、私に出来ることと言えば、1人でもたくさんの人にこの歌を聴いてもらい、歌の想いを伝えていくことです。1曲入魂ですね」(松永)
悲しく暗くなりがちな詞を「西先生がパンチのある作品に仕上げた」(松永)のは、いわきの人たちに元気になってほしい ー そんな復興ソングの想いが込められているのかもしれない。そこには「先生が得意とするロックの要素を盛り込んだロック演歌のテイストがある」(同)と感じられるのも、そのためだろう。
だから「中途半端な気持ちでは歌えない」と松永は話す。この歌のディレクターを担当した日本クラウンの大喜田一人は彼女に「気持ちを入れ過ぎずに抑えて、どっしりと歌って」と助言している。松永は流れ出しそになる涙を堪えての歌唱になった。
切ない歌を敢えて悲しさを見せないで歌う。振付の踊りには、11年も続けているというフラメンコを取り入れた。
「振付に取り入れたフラメンコは私の心の中で感じるもので、見る人にはどこがフラメンコなのか分からないかもしれませんね」と松永。
松永は今年でデビュー23年目。事務所を2度変わり、そのたびに芸名を変えてきた。「いろいろありましたが、その都度背中を押してくれる人がいました」と松永。
これからは「もっともっと歌を発信していかなければと思っています。今は『港じゃんがら帰り船』をたくさんの人に届けるために、休みなく突き進んでいきたいです」と、今までとは少し違った想いを抱くのも、この歌の力なのだろうか。
[松永ひとみ オフィシャルサイト]
http://www.hitomi-m.com/
[松永ひとみ 日本クラウン]
http://www.crownrecord.co.jp/artist/matsunaga/whats.html