人生はまさかの坂の繰り返し 演歌シンガーソングライターの紅晴美（ビクター）

◆ビクターエンタテインメントの紅晴美。2009年４月に「涙の岬」（作詞作曲・紅晴美）でメジャーデビューした。55歳であったというから、生まれは1953（昭和28）年である。ボクと同い年である。この人はけた外れに明るい。２人の子供たちからも「お母さんは愚痴を言わないね」とほめられるという。生活が苦しくても、人に陰口をたたかれても「いつかはいい時が来ると思って」がんばってきた」と紅は笑う。







　デビュー２曲目の「じゃんがら恋唄」（同）のカップリング曲「まさかの坂」（同）は、「人生すてたものじゃない 辛くても のぼることを やめなければ まさかの坂はやってくる」と、彼女が生きてきた人生をそのまま表現したような歌だ。

　1995年に埼玉で開かれたカラオケ大会で高橋真梨子の「for you…（フォー・ユー）」を歌って優勝したのがきっかけで歌手になった。その後、初めてのCD「雪の里」を自主制作したが、カラオケ教室を経営しながらであった。
　ある時、キングレコードの鏡五郎の紹介で、ラジオ福島でのパーソナリティーを任されるまでは仕事がなくて、借金の山を築いていたという。
　この間に自主制作のCDは５枚に増えていた。「じゃんがら恋唄」も最初は自主制作盤だった。

　「脳を通らずに、そのまま口から出てくるんです」という紅のトークがおもしろい、とラジオの聴取者の間で人気はうなぎ登り。福島県内のJA主催などのイベントに出演するために各地を回ったが、そうしているうちに、いつのまにか福島の人気者になっていた。
　「その番組で人生が変わってしまった」

人生はまさかの坂

　「じゃんがら恋唄」を作ったのもそんな時だった。ラジオ福島の仕事で、高校卒業以来初めて足を運んだ故郷の炭鉱町の光景を目にしたのが動機だった。その時の気持ちを素直に詞にして、曲を付けた。
　福島県内各地でのイベント会場で「じゃんがら恋唄」を歌うと、飛ぶように売れた。それが新人発掘のためにラジオ局に来ていたビクターエンタテインメントの社員の目にとまり、同社の三枝照夫会長に「いいね」と評価を受けたのがデビューにつながる。
　人生まさに「まさかの坂」である。

◆昨年10月、大阪市内で開かれた関西歌謡大賞では「涙の岬」が課題曲に選ばれ、自ら出演して５曲を披露した。屈託のなさを見せたステージでは「売れない（くれない）晴美です」と客席を笑わせ、続いて「私は貧乏、でもあふれる脂肪に希望もいっぱい」と自分の人生をギャグに変えるあたりは、大阪人の感性にぴったりと合ったようである。

大阪人から大阪人ぽいと言われる紅

　大阪ではラジオ大阪でレギュラー番組を持つ。ラジオ番組ではDJが口をはさむ間もないほどにしゃべりっぱなしだという。ラジオ福島の２時間番組でも、ほとんど笑いっぱなしとか。
　「大阪の人からは、私を大阪のおばちゃんのようと言われる。飾らない、そのままの姿が受け入れているようです。みなさんあったかいですね。大阪は最高。すごい」
　インタビューでも「血液型も体型もＯ型」と笑わせてくれた。

　この明るさは持って生まれたもののようだ。
　３歳の頃には炭鉱の共同浴場の番台で、美空ひばりの曲などを歌って、炭鉱で働く人たちを喜ばせていた。
　「私のファンには心の病気を持っている人も多い。聴いてくれているうちに病状が良くなっていくようなんですね。歌を通してがんばってもらえる」のが、紅にとって使命感のように感じるようになってきている。

◆紅の楽曲は、いずれも自分で作詞作曲して、心の内を歌う。
　だから自らを「演歌シンガーソングライター」と呼ぶ。
　「決まり切ったものではなく、自分が生きてきた人生を飾らない言葉でつづる。曲は心で出来るから」
　今も新しい曲を作っている。インタビューの間にも「これって曲になるね」と、ちょっとした会話からも曲のヒントが生まれる。「作る詞は普通の人と違って、自分の人生の中から出てきものばかりだ」
　ファンからは、それがいいと言われる。

　今まで努力と根性で「人にできることは自分も出来る」と、ひたすら歌手を目指してがんばってきた。
　目指すのは何でも歌える歌手で、浪曲、浪花節、バラードなどとやってみたいことはたくさんあるが「やればどれも一番になりたい」と負けん気は強い。
　今の紅を一番喜んでくれているのはファンであり、カラオケ教室をしていた時の生徒さんたちであるという。